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エージェントブログ

2021.06.30

【L.C.C.M住宅は二酸化炭素削減に貢献できるか?】

L.C.C.M住宅をご存じだろうか?

 

正式にはライフ・サイクル・カーボンマイナス住宅である。

 

 

木材の調達量や現場搬入に必要な運送に関する二酸化炭素排出量、また住宅の建設時や完成してからの日常における生活のエネルギー消費量、そして住宅が寿命に達して解体され廃棄されるまでのトータル、つまり住宅のライフサイクルトータルでCO2収支をマイナスにする住宅だ。

 

二酸化炭素排出量削減に関しての住宅事業における知名度としてはZEH住宅の後塵を拝しているが、その思想やハードルの高さはZEHなどの及ぶところではない。

 

 

 

そもそもZEH住宅はUA値(外皮平均熱貫流率_外皮性能と考えれば良い)を基準としており、基準を満たす断熱材を使用していれば性能基準は簡単にクリアできる程度のものである。

 

そこに、計算上必要とされる創エネシステム(太陽光発電など)と、認定された省エネ住設機器を設置すればどんなにレベルの低い工務店でも

 

「当社のお勧め!!_〇〇ホームのZEH住宅」などど喧伝することができる。

 

ところが、そのような工務店では私の知る限りZEH住宅ほとんど受注されていない。

 

なぜかと言えば、建築費が上がるからである。

 

 

平成9年に開催された地球温暖化防止京都会議は、世界各国から多くの関係者が参加し、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)及び六ふっ化硫黄(SF6)の6種類の温室効果ガスについて、先進国の排出削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた文書が作成され、それは「京都議定書」と、呼ばれている。

 

このような温室効果ガスの削減を民生部門から達成すべく、鳴り物いりで予算をつぎ込んだのがZEH住宅だった。

 

当初の計画では2020年にはZEHの標準化

 

2030年には、ZEH相当の住宅以外は建築を認めないとのアクションプランであったが、経産省や国交省などの目論見はみごとに失敗し、ZEH補助金の予算は毎年余っている(ようするに、申請されていない)

 

理由は単純で、ZEH補助金申請書類のボリュームがありすぎて作成が

「めんどうくさい」からである。

 

私もZEH黎明期に、後学もかねてZEH申請業務をおこなったことがあるが、添付書類も含めるとちょっとした広辞苑ぐらいの厚みになった。

 

技術力があっても、書類作成の煩雑さと補助金の低さを考えれば「やってられるか!!」と考えても致し方がない。

 

 

 

最近は経産省も現実を直視して気まずくなったのか、

 

「2030年までにある程度、ZEH住宅が増えればいいな~」というニュアンスに変わっている。

 

ZEHに求められる外皮性能は地域別で7段階に分けられているが、寒冷地としてもっとも外皮性能が求められる北海道でも0.4[w/㎡k]以下であり、最近はあまり関与していないので記憶でしかないが、ZEH補助金を満額使用するための基準でも0.24[w/㎡k]程度のものでしかない。

 

高気密・高断熱を宣伝文句にしている会社であれば、基本性能においてこの程度の基準はクリアしているだろう。

 

ところが、ローコスト住宅など性能を度外視して金額で勝負している会社は、この条件にそもそも合致していないからZEH仕様はハイグレード仕様とされ、金額が跳ね上がる。

 

では、「ZEH住宅は夏は涼しく、冬は暖かく快適なのか?」と、問われればそう単純なものでもない。

 

高気密・高断熱住宅とは、外気温の影響を受けにくい住宅にすぎないからである。

 

影響をうけにくいのだから、例えば暖房においては快適温度を維持するのに必要な熱エネルギーを削減することができる。

 

単純に言えば、

 

1冷暖房費が削減できる

2.余計な冷暖房エネルギーを使用しない

3.電気・ガスなどの使用量が削減できる

4.発電やガス搬送などが抑制されることから二酸化炭素排出量が削減される

と、いう流れである。

 

ここに快適性は入っていない。

 

もっとも冷暖房効率の高い住宅であるから、設定温度を上げるもしくは下げれば室内環境は快適といえるのだろうが、本末転倒である。

 

私は別にZEH住宅に恨みはないが、国交省のZEH研修会などに参加して、なぜZEHにC値(隙間相当面積)を基準として盛り込まないのか、しつこく質問した経緯がある。

 

C値とは建物隙間相当面積のことであるが、要するに家全体にどれだけの隙間が生じているのかを示す数値である。

 

このC値は、実際に完成した住宅において「気密測定」を実施しなければ数値化することができない。

 

UA値のように使用部材の熱還流率などにより所定のシミュレーションなどで換算することが出来ない数値となるからだ。

 

そのようなことから、ZEHにC値を盛り込まなかった理由も、

 

1.完成後に機密測定を実施して基準に満たなかった場合の補助金取り扱いが煩雑

2.一定のC値をクリアすることを条件とした場合、職方の技術力や工法により達成できない工務店などが多くなる。

 

ではないかと推察することが出来る。

 

このC値をおざなりにしたZEHは、たとえるならば

「防寒性能の高くお値段の高いダウンジャケットだが、サイズが合わずにブカブカで、裾や襟元から冷気が侵入してくる状態」とでも表現すれば良いだろうか。

 

片手落ちである。

 

サスティナビリティを基本に据えれば、先ほどご紹介したL.C.C.M住宅が理想形なのだが、私の知る限りL.C.C.M住宅を達成可能な会社は日本でも数社しかないだろう。

 

国が予算組した「サスティナビリティ建築物等先導事業」において、令和2年に採択された件数は下記の38件でしかない。

 

いずれも先進的研究に関与していると喧伝する目的での申請である。

 

これらは実証研究の段階であり、実用レベルとは言い難い。

 

だが住宅先進国である世界諸国の性能判定基準や民間への義務付けは、日本のはるか先をすでに達成している。

 

常々に思うのだが、新築住宅を販売している営業マンや不動産営業の中でこれらの情報に精通しており、理路整然と説明できる人間は一体どれくらいいるのだろうか?

 

性能向上を伴わないリフォーム済み住宅を、

堂々と「リノベーション住宅」と宣伝しているようでは、それも無理かもしれない。

 

記事執筆担当_不動産エージェント 奥林洋樹