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エージェントブログ
2021.12.22
『一物四価』と言う言葉をお聞きになったことはあるだろうか?
不動産は、一つの物件にたいして四つの価格が存在することを表す言葉だ。
まず私たちが仲介などで販売をしている実勢価格(流通価格ともいう)そして
公示価格_国土交通省が毎年1月1日時点の土地を算定した金額。一般の土地取引の指標とされる。
固定資産評価額_固定資産税の算定基礎となる土地価格の評価。
相続税評価額_相続税の算定基礎として国税庁が算定。どちらかと言えば路線価のほうが馴染み深い表現だろう。
購入時には実勢価格ばかりに目が行くだろうし、実際に取引される価格であることから大切なファクターであるが、所有してからはそれ以外の価格が維持費などに大きく関るので、大切な価格であることに違いない。
固定資産評価額は実勢価格の7割程度が目安であるとされているが、あくまでも目安である。
建物の固定資産評価は建築構造によりことなる。
例えば木造住宅は22年で原価償却(あくまでも税法上)されるので、新築時から少しづつ評価額が下がっていくのだが、たいして土地の評価額は据え置き、もしくは上がり続ける(下がることはない)
余談だが、販売計画が頓挫したニュータウンなどは住宅もまばらであり、土地の買い手がいないことから投げ売り状態のような価格が実勢価格だ。
そのような場所では固定資産評価額が実勢価格を上回る場合が多々ある。
実勢価格にたいした固定資産評価が高すぎる場合には、評価見直し時期に固定資産評価審査委員会(固定資産課税台帳に登録された価格に対する納税者からの不服を審査・決定する中立機関)に不服申し立てできる制度があることから、私も一度おこなったことがある……
「実勢価格と比較して固定資産税が高く、見直しを求める」というこちらの申請にたいして、読むだけで頭が痛くなるような、ちょつとした辞書ほどの厚みもある弁明書が市から提出されてきて、争うのも面倒くさくなり取り下げた。
経験として、申請するのは止めないが勝てないと思った方がよい。
どの市町村でもそうだが、固定資産評価は大切な税収の根拠である。
当初の評価方法に誤りがあろうがなかろうが、一度決定したものはおいそれと覆すことはしない。
全国で固定資産税不服申し立ては相応の件数が行われているはずなのだが、固定資産評価審査委員会が市町村ごとに組織されているためなのか、情報がまとめられておらず、申請件数や結果について確認することができない(申請しても通らないことが発覚しないように、あえて情報を公開していない気がするのだが……)
私の知る限り、納税者、つまり私たちの主張が認められたとの話を見聞きしたことはまったくない。
余談が長くなり恐縮だが、本題に入ろう。
相続が発生した場合に、土地の評価は相続税評価額を基準として計算し納税する。
この方法に手落ちはまったくない。
ところが、国税局が「路線価による評価は適当ではない」として納税計算した金額では足りないとして、相続人による財産評価を否認し、追徴課税したことで裁判が提訴され、最高裁第3小法廷が当事者の意見を聞く上告審弁論を2022年3月15日に開くと決めたことで注目を集めている。
これだけでは分かりにくいだろうから、補足する。
まず国税庁が相続財産の算定基準のひとつとする路線価は、土地取引の目安となる公示地価の約8割が目安だ。
であるから実勢価格より低いのが一般的で、その価格差を利用して節税目的で不動産を購入する富裕層が多くいる。
それ自体は合法であるから、まったく問題ないのだが……
今回の事件は実勢価格から大きく乖離(かいり)した路線価を基にした相続財産の評価が問題とされている。
つまり相続税対策として、節税目的で不動産購入した事案にたいして最高裁がどのように判断を下すかだ。
事件の概要だが
原告は、故人が銀行から融資を受けて購入した不動産の相続人だ。
すでに一、二審の判決で判決は下されているのだが
それらによる事実認定によると、原告は東京都内と神奈川県内のマンション計2棟を相続した際、路線価に基づいて財産を約3億3000万円と評価した。
銀行からの借り入れもあったため、相続税額を「0」として申告した(もちろん間違いではない)
もともと故人が購入した価格は2棟で約13億8700万円だった。
さて、ここで注目して戴きたいのが路線価計算では約3億3000万円だが、実勢価格は13億8700万円だということだ。
差額が8割どころじゃない。
実勢価格が高騰すると、このような現象がおこりうる。
実際に裁判で証拠提出された国税当局の不動産鑑定による評価も2棟合計で約12億7300万円となっている。
不動産市場は生き物だから、日々、価格は動いている(もっとも株のように毎日小刻みに変動するようなものではないが)
国税局は相続人の申請にたいして「路線価による評価は適当ではない」として約3億円を追徴課税したことにより、相続人が不当であるとして訴えたのが、事の起こりである。
なんせ、相続税が「0」か「3億」かだ。
しかも固定資産評価額による相続税計算もきちんとしているのに、追徴課税がきた。
そりゃ裁判もしたくなるだろう。
ところが一審・二審とも国税局が正しいと判決している。
一審の東京地裁判決では、路線価に基づいて申告した評価額について「不動産の客観的な交換価値を示しているかは相応の疑義がある」と指摘している。
たしかに固定資産税評価額は、実勢価格よりも低いのが普通だが……
裁判所は「特別な事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価されることが許される」として、課税処分は妥当だと判断し、二審の東京高裁判決も判断を維持した。
先ほど解説したように、最高裁が意見聴取するのは来年3月15日だが、個人的には一審・二審の判決を、最高裁が維持する可能性が極めて高いとみている。
考えて見れば、国税庁が財産評価基準の在り方を示している『財産評価基本通達』の6項では「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」との例外規定がある。
であるから今回の国税局による対応も無理難題ではなく、通達の手順を遵守して行われているわけだ。
これまで特例である財産評価基本通達_6項の規定適用について司法判断が下されたことはなかった。
この特例の規定適用が最高裁で示された場合、不動産購入による相続税対策の根幹が、一気に崩れる可能性がある。
もっともこのような判例などの情報を持ち、適切にアドバイスできる私たちであればそれほど大きな影響を受けないが、建築により借入負債を増加させ、相続税対策であると言い切って営業展開している大手の会社などは、ビジネスモデルを根底から見直す可能性が出てくるだろう。
記事執筆担当_不動産エージェント 奥林洋樹