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エージェントブログ

2021.11.20

【事故物件に関する保証人への損害賠償等金額についての一考察】

まるで論文みたいなタイトルで恐縮だが、真面目に論じよう。

 

人の「死」に関するガイドラインが策定され、売買や賃貸物件がいわゆる事故物件となった場合の『告知』に関してある程度の基準が示された。

 

先日もブログでこのガイドラインについて簡単に解説したが、この制定によって私たち不動産業者は事故物件調査に関しては非常にラクになった。

 

私たち不動産業者は売主や貸主(所有)にたいして「告知を正確におこなわなければ民事上の責任を問われる可能性がある」ことを説明し、正確に物件状況報告書等を記載してもらえば、調査は適正であると判断基準が示されているからだ。

売買・賃貸によらず「自然死や日常生活において当然に予想される不慮の事故」についての「死」は基本的に告知が不要とされ、それ以外に関しても賃貸住宅においては3年経過後を目安として告知が不要とされるなど、事案発生からの経過期間について判断基準が示されている。

 

このように判断基準がしめされたことから、私たち不動産業者は「事故物件」であっても取り扱いがしやすくなったのだが、反面として入居者が事案以降二順すれば告知不要であるといった都市伝説的な対処法が通用しなくなった。

 

告知不要とされている事案を除き、確実に3年間は告知をしなければならないからだ。

 

賃貸住宅が事故物件となった場合、好んでそのような部屋に入居する人は多くはないので、何らかのプレミアをつけるなどの対応をおこなわなければ入居者を見つけることができない。

 

「ワケあり物件」として家賃を下げる方法だが、家賃を下げれば予定していた家賃収入が減少し、収支計画に影響を及ぼすことになる。

ウッドショックによる資材価格の高騰により新築住宅は値を上げているが、連動するように中古住宅市場も値を上げており、これを投資の機会と捉え、個人においても運用のしやすいワンルームや分譲マンションを購入して賃貸運用する不動産投資が活況である。

 

だが、賃貸運用の不動産投資は入居者がいて初めて収支計画が成り立つ。

 

投資に失敗する多くは収支計画の甘さによるものだが、不可抗力により事故物件となれば入居者が見つからない状態が長期間続く可能性が高い。

 

不動産投資を行う場合には、想定される最大のリスクを勘案し計画することが必要だが、さすがに事故物件予想を盛り込んで収支計画を作成する会社は聞いたことがない(可能性を考慮する必要もあるかもしれないが、確率論的には微妙である)

 

資金が潤沢な方は現金で投資用不動産を購入するが、多くの場合には不動産担保ローンなどを利用している。

 

ローンであるから、入居状況など斟酌されず月々の返済が必要だ。

 

コロナ禍による影響でリモートワークの増加による「鬱」や、希望していない部署への配置転換による過大なストレス、また人員削減としての解雇による収入減などを「苦」にしたことが原因と推察される自殺者の増加が社会問題となっている。

 

このような自殺者の増加が顕著に表れている時代においては、賃貸オーナーも入居者が自殺などをした場合、つまり「事故物件」となった場合の対策に関して知識を持っておくことが必要であろう。

私は弁護士ではなく不動産エージェントなので、保証人への損害賠償請求事件などを直接的に扱うことはできないが、類似する判例を提示して、裁判ではどれくらいの請求が認められているかを説明することならできる。

 

そのような観点から、担当しているサイトや雑誌にコラムを執筆したが、その過程で調査した多くの判例から、傾向を確認するに至った。

 

ブログでは判例の幾つかと、そこから導き出した目安を解説したいと思う。

 

【賃借人が殺害され室内に血が飛び散った状態の賃貸マンションにおける判例】

 

 賃貸人が原状回復費用と家賃減額による遺失利益を請求したが、裁判所は「殺人による被害者に善管注意義務の違反は認められない」として、室内の汚損も故意・過失がないと判決した。

 

 判決では特殊清掃費用や原状回復費用のほか遺失利益も認められず、それらの実質的な負担はすべて賃貸人とされた。

 

 殺人事件の被害者に故意・過失が存在しないことは理解できるが、被害者は気の毒ではあるが、実質的な被害を負担する賃貸人もやるせないだろう。

 

【賃貸マンションの室内で賃借人が知人を刺殺、その後、自らが飛び降り自殺した判例】

 

 前項と同じく殺人に関しての裁判だが、今回は被害者ではなく加害者のケースである。

 

 この場合は賃借人に善管注意義務違反があるとされ、遺失利益を賃料減額分約179万円と算定して、連帯保証人にたいし損害賠償の支払いを命じられた。

 

【借り上げ社宅で社員が自殺したことによる判例】

 

 東京地判平成13年11月29日の判決だが、借り上げ社宅であった賃貸用アパートにおける社員の自殺により、事案発生後10年程度は賃料の減額を実施しなければならないと賃貸人が主張し、その計算に基づく損害賠償を請求しました。

 

裁判所は事案経過後2年程度で心理的瑕疵は希釈するとして、2年間分の賃料差額(約44万円)の支払いのみを認めた。

 

【ワンルームマンションにおける自殺による判例】

東京地裁の平成19年8月10日では、単身ワンルーム物件内における自殺は、世間の耳目をあつめる特段の事由もなく、またワンルームマンションという居住形態は相隣関係も相当程度に希薄であるとした。

 

事案発生から1年間は賃料全額、及び以降2年分については賃料の半額が相当であるとして計約132万円を、自殺した者の相続人及び連帯保証人にたいして支払いを命じた。

 

【学生メインのマンションにおいて、募集ピークを考慮した判例】

 

東京地裁で平成23年1月27日に判決された単身用、とくに学生をメインの入居者としている賃貸マンションの自殺事案では、賃料減少額の計算をおこなうにあたって入居期間の目安である2年間を一区切りとして算出し、さらに学生が部屋を探すピークが3月であるとして5か月間を足した2年9カ月を減額賃料計算の根拠とした。

 

以上、5例ほど判例をご紹介したが、皆さんはどう受け取られるだろうか?

お亡くなりになった方や事件に会われた方お気の毒だが、それにより金銭的な被害を受ける物件所有者にたいしての損失補填としては、個人的には非常に少ないといった感じを受けてしまう。

 

家賃収入によりローン支払いを計画していた方であれば、その多くは赤字になると予想できる。

 

裁判判例は紹介した以外にも多数、存在する。

 

それらを精査して、下記のような類似性が見受けられるので解説しておく。

1.死因が自然死である場合、家賃減額等の遺失利益や原状回復費用の支払いが認められる可能性は著しく低い。

 

※遺体の状況等により原状回復費用の一部が認められる可能性はある

 

 2.自殺や他殺における原状回復費用において、容認されるのは事案発生により損傷などの影響を受けた特定の場所に限定される可能性が高い。

 

 ※お祓いや供養の費用は請求として認められる可能性が高い。

 

 3.自殺や他殺を原因とする事案発生後からの家賃減額請求において、遺失利益として3年間が妥当である(確認できた判例での最長期間でも4年間)

 

 ※3年の期間内においても建物形態や主とされる入居者属性により、減額率は考慮される可能性が高い。

 

 ※請求できる遺失利益は、事案発生後から1~2年にたいしては従前家賃の1/2が目安となり、それ以降は1/4程度とされる可能性が高い。

 

 4.嫌悪感の度合いとして判例では「通常人の」もしくは「社会通念上」との文言が散見されることから、世間の耳目を集めたかどうか、つまり大々的にニュースで報道されたかどうかにより家賃減額の判断基準が分かれると推定される。

 

5.原状回復費用については当該行為後の室内状況と死因の因果関係が認められるかにより判断が分かれる。

 

 ※首つり・リストカット・睡眠薬の服用などの自殺方法と室内状況が個別に判断され、社会通念上、著しい損傷等がないかぎり否決される可能性が高い。

 

 6.自然死や自殺などの死亡原因によらず、室内にのこる「異臭」については認められる可能性が高い。

 

 ※原因の除去に関してはクロス交換やカーペット交換・特殊清掃費用などに留まり、従前居住者の生活感を消すためが理由であるクロス交換等の費用が認められる可能性は著しく低い。

いかがだろうか?

 

上記はあくまでも判例から私が読み取った目安ではあるが、裁判官は独立性を持ち判断するので、他からの干渉を受けることはせず事案ごと詳細に検討し判決文を書くが、過去の類似判決には目を通し、論点整理の参考にはするだろう。

 

つまり判決には、一定の法則性が存在するとした考え方も成り立つ。

 

あくまでもそのような考え方に基づけば、裁判に提訴しても所有者が思うほどに原状回復費用や多額の逸失利益は認められないだろうとの推測も成り立つ。

 

直接交渉で合意に至らない場合、裁判により解決することになるが、合意に至らない多くの事例を観察すると損害賠償や原状回復費用の過大請求(実際に過大であるかどうかは別として、判例から見れば)が原因である場合が多い。

 

裁判を経ても希望する金額が得られないのであれば、弁護士費用などが増加する分だけ、損害額が増加するといった考え方もできる。

 

無論、裁判により損害賠償額が増加する可能性は否定できないが、裁判に要する時間や経費のことを考えれば、判例から折衷案を模索して早期に解決し、新たな入居者を募集して収支を健全化させる行動を選択するほうが得策ではないだろうか?

 

記事執筆担当_不動産エージェント 奥林洋樹