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お知らせ
2021.11.19
北海道で不動産エージェントをしていると
「齢をとって仕事を引退したら、田舎に引きこもって自給自足で……」なんて、将来的な夢とも現実ともつかぬ相談を受けることがある。
敷地内の畑を耕し、雨が降れば読書に勤しむ自然と調和した暮らし。
いわゆる「耕晴雨読」の生活
通勤や仕事のストレスを抱え、それでも日々頑張っている労働者にとって心のオアシスともなる将来的に夢見るライフスタイルである。
私が好きなイギリスでは、若い時分に都市部で小さな不動産を購入し、自ら補修工事などを施して資産性を高め、手狭になれば売却し、少し広めのアパートメントを購入する。
家族のライフスタイルの変化によりそれを繰り返し、最終的には郊外の古屋を購入して先に挙げた自給自足の生活をするのが国民の憧れらしい(また実現している方が多いのも特徴的である)
自然と調和した暮らしは、人間の遺伝的な希求本能でもあるから、誰しも一度は憧れれをもつだろう。
もちろん憧れを現実にしている人が存在するのは事実だが、田舎暮らしは思うほどにはたやすくない。
豊富な自然に囲まれた北海道は、田舎暮らし候補にあがることも多く、私のもとに冒頭のような相談が寄せられる。
ビジネスライクに考えれば「移住」したいと当人が考え、物件を紹介して気に入れば契約・決済をおこなえばよいのだが、多くの方が移住してから後悔している現実をみると、やはり事前に一言添えておくのが不動産業者としての矜持であろう。
田舎の住宅は、首都圏と比較して驚くほど安い(場所によっては、100万円で庭付き一戸建てが手に入る。むろんそのレベルだと手直しは必須だが)
購入せずに賃貸でも良い訳だから(これも月3,000円ぐらいからある。恐るべし!!)居住に必要な費用はさほどでもない。
本格的な居住を検討している方に、私が必ず提案するのは
【一冬は体験入居すること!!】
これには明確に理由がある。
理想と現実を知ってもらうためである。
例えば日用品の価格。
田舎だから物価が安いだろうと思うのは間違いで、競争原理など一切はたらかない地域唯一「生鮮から日用品まで各種お揃えしています」店舗面積5坪がウリの○○商店などは、いつ仕入れたのか不明の日用雑貨もすべて定価である。
もちろんタイムセールなど望むべくもない。
なので緊急避難的として必要な場合か、日がな一日、茶を飲みながら世間話に興じる以外に利用価値が見当たらず、デフレスパイラルの温床と化している。
これは地域唯一のガス販売、大工、水道工事業などにも色濃く適用される原理で、リフォーム工事の見積もりを取ると仰け反る金額が提示されたりする。
これを即、悪と糾弾してはならない。
物々交換により地元野菜供給が成立するなど、地方では貨幣による消費材購入などの価値観よりも近所付き合いが優先される。
需要が少ないのだから割高になるのは当然として受け入れ、「おたがい様の心で」事業継続に協力しているのだ。
これ以外にも、田舎暮らしには幾つかのハードルが存在する。
1.家人の反対
2.人間関係
3.ありあまる時間を、有意義とできる趣味などを持っているか
最初からこの辺りをクリアにしておかないと、大概はすぐに後悔する。
「耕晴雨読」というけれど、本好きを自認する私でも2~3時間に1回は休息をとらなければ読み続けることはできない。
読書には相応の体力・気力が必要とされるのは、ご存じだろう。
加齢とともに衰えるこれらの要素により、雨読だけでは時間が持たない。
フリーWi-Fiスポットなど最寄りに存在する訳もなく、有線で独自に引き込んだインターネットによる利用しかできない(エリアによっては携帯電話も電波を拾わない)
また大雪が降ると道路が覆い隠され、数日に渡り外出できないことなど普通である。
このような現実を体験してから田舎住宅の購入を検討しても、遅くはない。
記事執筆担当_不動産エージェント 奥林洋樹