Facebook Instagram
011-763-8360 受付時間(平日)9:30~18:30 CONTACT

NEWS

2021.10.03

【その汚れ、原状回復義務はどちらにある?】法改正後も減らない敷金返還トラブル

依頼を受けているコラムでは、不動産に関しての問題傾向を常に分析し、自分なりの解釈も含め執筆している。

 

いぜんも書いたが、「ブログとコラム」は異なる。

ブログは日記の延長であるから、執筆者のインテリジェンスが疑われるものの、本人が気にしないのであれば誤字や脱字、接続詞の不足や前後の脈絡もない構成も、ある程度は許容される(不動産業者のブログは、文章的に成立していないものが多い)

 

だがコラムの場合には、そうもいかない。

 

コラムは、小論文の一形態であるからだ。

 

故に、一定の文章形式をもつ。

 

最低でも5W1Hで構成されている必要があり、望むべくは3WHATが好ましい。

 

基本的な3W、つまり

 

「定義」

「現象」

「結果」

 

これらを明確にしたうえで、「理由・背景(WHY)」「歴史的状況(WHEN)」「地理的状況(WHERE)」「対策(HOW」を盛り込んで構成する。

さて本題に戻るが、法改正後も減少しない敷金返還トラブルについてである。

 

この議題を論じるには、従前から問題視されてきた原状回復の定義が明確にされたところから解説しなければならない。

 

つまり「原状回復とはなんぞや?」ということである。

 

2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が令和2年4月1日から施工されている。

 

主な改正点は以下のようなものだ。

つまり、賃貸借においてトラブルの温床となっていた曖昧な表現を見直し、明確に定義づけにすることにより、抑制することが目的だ。

 

上記の改正ポイントを要約すると下記のようになる。

 

●賃借人が自ら修繕できる場合の定め

●賃貸借の対抗要件に関する規定

●賃貸人の原状回復義務及び収去義務等の明確化

 

そのうち原状回復は下記のように定義づけされた。

 

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

 

この定義づけを要約すると、原状回復とは下記2点である。

 

●賃借人の通常使用により生ずる損耗

●上記以外の損耗

 

賃貸人負担は具体的に以下のようなもの

 

  • 日光によるもの(畳日焼け・フローリングの変退色・壁紙の日焼けや劣化)

 

  • 家具配置による床のへこみや痕跡

 

  • テレビや冷蔵庫等、家電設置による背面クロスの電気焼け

 

  • 下地ボードに影響を及ぼさない程度の画鋲などの跡

 

  • 設置機器の機械寿命を原因とする不具合や故障

 

  • 建物の構造的な欠陥であると予測されるもの(クロスのカビ・雨漏り跡やシミ・よじれ)

 

上記以外、つまり賃借人の故意・過失・善管注意義務違反は以下のようなものであり、これらは賃借人の負担となる。

 

  • 引っ越し・家電搬入時などの損傷

 

  • 結露の放置が原因と特定されるカビやシミ

 

  • 飲食物などをこぼしたことによるシミ

 

  • タバコによる焼け焦げや穴、壁紙の変色や匂い

 

  • 下地に影響を与えるほどの壁穴

 

  • 手入れを怠ったことによる浴室やトイレのカビや水垢

 

  • 鍵の紛失、もしくは使用方法の問題により発生した破損による交換

 

  • 逸脱した使用方法による設備機器の故障

ここまで具体的に事例を定めれば、敷金返還請求のトラブルは減少していそうなものだが、実際はそうでもない。

 

独立行政法人_国民生活センターで集計している「敷金返還トラブル」相談件数の推移をみても、改正前と変わらぬ年間12,000件前後と高い水準で推移している。

なぜ、法改正の効果が得られていないのか?

 

法の改正後、趣旨が浸透して効果が得られるまでは一定の期間を要するが、法律自体は2017年に成立し、充分とも言える準備期間があったはずだ。

 

推測として、改正法の理解が不動産業者に浸透していないことが考えられる。

 

このような仮説に基づき、それを裏付け、もしくは他に問題が存在するのかを具体的なエビデンスを収集しながら考え、一定の結論に至る文章がコラムである。

 

記事執筆担当_不動産エージェント 奥林洋樹